アート写真のモデル
A子は写真が好きで、プロのカメラマンを目指している女の子です。
彼女とは中学高校が同じで、中高時代はよく二人で写真の話などもしていました。
大学は別々となりましたが、仲の良かった私たちはその後もよく連絡を取り合っていました。
ある日、A子と待ち合わせをして会った際、A子からヌードを撮らせてほしいと頼まれました。
それは冗談などではなく真面目な相談でした。
A子曰く、一度しっかり人と向き合って写真を撮ってみたいとのことです。
私も写真は好きなので、A子の気持ちも理解できます。
A子の気持ちを尊重し応援してあげたいとは思うものの、裸を撮られることには少々抵抗もあります。
それにA子は、良い写真が撮れたら発表もしたいと言っています。
そこで譲れない条件として二つの条件を提示しました。
一つは、顔は写さず被写体が誰かわからないように撮ること。
もう一つは、被写体が私であることは誰にも公言しないということです。
A子も承諾し、後日撮影が行われることになりました。
そして向かえた撮影当日。
A子の自室で撮影が始まりました。
A子の家にはこれまでも何回か来たことがありますが、撮影用にセッティングされた室内は普段とは趣きが異なります。
私はやや緊張しながら着ていた服を脱ぎました。
同性とはいえ、裸を見られるのは恥ずかしく感じます。
始めのうちはなかなかうまくポーズをとることができませんでした。
しかし回数を重ねていくうちに、少しずつ撮影されることにも慣れてきました。
そのため、だんだんとカメラの前でも肩の力を抜いてポーズがとれるようになりました。
ときにはA子の提案で、普段の私ではしないような大胆なポーズに挑戦してみたりもしました。
そして、ほぼ一日がかりとなりましたが撮影は無事終了しました。
照れくささはありますが、振り返ってみれば楽しいひと時でした。
A子も良い写真が撮れたと喜んでいました。
その後、A子はその日に撮影した写真の中から何枚か選び公募展に応募しました。
すると審査員の目に留まり、入賞に至ったのです。
作品は会期中、美術館の展示スペースにて飾られることになりました。
会期が始まると、私もA子と一緒に会場に行きました。
会場では入選・入賞した様々な作品が飾られています。
A子の作品は、会場の中でも割と目立つ位置に飾られていました。
自分の裸を写した写真が美術館に飾られているのを見るのは、なんともいえない不思議な感覚でした。
作品の前で立ち止まって眺めている人も少なからずいます。
当たり前ですが、傍にいる私が被写体であることには気付いていません。
アートとはいえ、写真には私の胸やアンダーヘアーなど、大事なところもしっかり写っています。
展示会場に訪れた老若男女、様々な人たちがこの写真を目にするはずです。
しかし、こうした状況はどこか現実離れして感じられて、あまり恥ずかしさといった感情は湧いてきませんでした。
実のところ、写っているのは自分の裸なのだけれども、それが自分のものではないように感じていたのかもしれません。
会期が終わった後も、時折写真が掲載されている図録を見返したりすることがあります。
時間を経ても、会場で感じた不思議な感覚はまだ消えずに残っています。
作品を客観的に見るのは難しいですが、入賞しただけあり、A子の非凡なセンスが感じられる写真かと思います。
はたして写真を観た見知らぬ人たちはどのように感じたのか、もしできるなら聞いてみたいですね。