ヌードモデルの現場で
大学卒業後、美術モデルの仕事を始めました。
美術モデルについて馴染みの無い方もいるかもしれませんが、主に美大や美術予備校、絵画教室などで絵のモデルをする仕事です。
私自身も美大出身ということもあり、縁あってこの仕事に就きました。
最初は着衣のモデルだけをしていましたが、着衣だけだと依頼が多くないほか、あまり稼げないという現実もありました。
そこでヌードの仕事も受けることにしました。
私自身もヌードのモデルさんを描いた経験はそれなりにあり、ヌードだからといってさほど抵抗はありませんでした。
とはいえ、最初のうちは裸を見られることに多少の恥ずかしさは覚えました。
でもそれも最初の数週間ほどで、慣れてくると裸でいることが当たり前になってきました。
馴染みの無い方には想像が付きにくいかもしれませんが、美術モデルの現場の空気ってすごく淡々としているんですよね。
だから不思議と、恥ずかしいとかそういう気持ちにはならないものです。
むしろこの仕事はけっこうな肉体労働で、そのほうがずっとたいへんでした。
休憩を挟むとはいえ、長時間動かず同じポーズを続けるというのはかなりしんどいものです。
体が痛くなったり、コリに悩まされることも日常茶飯事です。
そんなわけで、普段のお仕事ではあまり恥ずかしい気持ちになることはありません。
とはいえ例外もあり、ここでモデルをしていてちょっと恥ずかしかった経験をご紹介したいと思います。
ある美術予備校へ、ヌードモデルをしにいった時のことです。
この予備校へは、これまでも何回か仕事をしたこともあり顔なじみの現場となります。
その日もこれまでと同じように現場へ行った私は驚きました。
なんと講師陣の中に、大学時代の同窓生がいたのです。
話を聞くと、つい最近勤務を始めたとのことです。
その人、A君とは特別仲が良かったというわけでもありませんが、大学時代を共にした相手です。
これから学生時代の知人に裸を見られると考えると、なんだか急に恥ずかしい気持ちが沸いてきました。
初対面の人や美術モデルの仕事を通じて知り合った人に裸を見られても平気なのに、人間の心理って不思議ですね。
その日はヌードクロッキーの授業で、立ちポーズに座りポーズ、寝ポーズといろんなポーズをとりました。
指導中とはいえ、A君には様々なポーズをとる裸の私の姿が目に入ったはずです。
ポーズや角度によっては、ヘアの中まで見えていたかもしれません。
なんだか気恥ずかしくて、その日はA君の顔を直視できませんでした。
旧交を温める機会でもありましたが、仕事が終わると挨拶もそこそこに帰路につきました。
もしまた同じ予備校から依頼があったら、引き受けるか否か、迷い中です。
こうしたことも慣れてしまえば、気にならなくものかな⋯